チューニングボート™︎を用いての統合ワークショップに参加しました

チューニングボード™️を用いての統合 ダレル・サンチェスと田畑浩良によるコラボワークショップ」に参加してきました。

ダレル博士は上級ロルファーで、アメリカのコロラド州ボルダーとデンバーで活動しています。ソマティックトラウマセラピストでもあり、頭蓋仙骨療法、動作や身体感覚についての造詣がとても深い方です。欧州でのワークショップの講師も長く務めています。
ロルファーになるためのベーシックトレーニングでは、トラッキングという技術を教わります。トラッキングはクライアントの動作を「追跡」して制限や可能性を見つけ出し改善へと導くテクニックです。立位でのトラッキングを生み出したのはダレル博士だと、今回のワークショップで初めて知りました。

ダレル博士からセッションを受けた2015年

わたしはボルダーでのトレーニング中に、クラスメイトに勧められてダレル博士のセッションを3回受けました。2015年秋のことです。
今でもその時のことを憶えています。陽射しがたっぷり入るセッションルームは少し天井が低く、それによって部屋の横の広がりが感じられる快適な空間でした。ダレルの身のこなしはたいへん優雅で音がしない。彼の周りだけ空気の質が異なるような印象でした。
ダレルのセッションは、その佇まいと同じく穏やかで思いやりに満ちたものでした。また、ベーシックトレーニング中のわたしに配慮してくれたのか、構造への物理的な働きかけのテクニックもいくつか教えてくれました。そのテクニックのひとつを、私は自分のセッションでしばしば使わせてもらっています。

Business card of Darrell Sanchez, Ph.D., LPC
その時いただいた名刺。web上でも上記の電話番号は公開されているのでそのまま載せています

ダレル博士はチューニングボード™︎という独自のツールを開発してセッションでも用いられています。今回はそれを使っての身体・動作の統合という大きなテーマでのワークショップでした。

チューニングボード™︎とは

チューニングボード™︎は、分厚い正方形のレーズンサンドみたいな格好をしています。体重を受け止めて前後左右に傾く柔らかな機構の上下を、木の板で挟んだ形状です。この上に立って使います。どこにどのように乗っても決して静止することがないので、ボードに乗った人は常に揺れ動く仕儀になります。(ワークショップは写真撮影不可でしたので、どんなものかは上の動画をご覧ください)

バランスを取るために揺れ動いていると、悲しみや怒りなどの感情が湧いてきたり、やたら楽しくなってきたり、からだのパターンや表現(手を握りしめるなど)が顕れてきたりします。足の位置の微妙な違いで揺れの方向が変わる。バランスを取るうち呼吸の質が変わる。胸郭がリラックスする。そんな様々な変化も興味深いです。
ただ、心地よいかと言われると微妙です。心地よい瞬間はあります。しかし、気を抜くとすぐまた激しく揺れます。強制的に今・ここの身体の在りように集中させられる。そんな感じすらします。

ダレル博士によるチューニングボード™︎の可能性(訳は井爪がしました)

あらゆる使い方においてチューニングボード™︎は

  • 体にある滞りを解放し、生命とエネルギーの流れを開く助けとなる。
  • 人間としての体験のもっとも深い領域へと、動きを導いていく。
  • わたしたちを「いまこの瞬間」へと引き戻す。
  • 心と身体の統合・一体性を、意識的に「感じる」体験を促す。
  • 構造・機能・体験の親密な関係性を深める。
  • 新しいパターンへの再構築を明確化し、加速させる。
  • 施術者とボードに乗る人の双方にとって、創造的なプロセスへの扉となる。
  • ふだんは気づかれもせず見過ごされがちなパターンを浮かび上がらせ、気づきと変化を促すフィードバックツールである。

英語のわかる方は是非下記も参照してみてください(タップで詳細が開きます)。
引用元:https://www.rolfingboulderdenver.com/learn-more-about-the-tuning-board-2

  • Helps to free obstructions and open the body to the flow of life and energy;
  • Facilitates movement into the deepest areas of our human experience;
  • Brings us into the present moment;
  • Promotes a conscious felt experience of the unity and integration of mind and body;
  • Enhances the intimate relationship of structure, function and experience;
  • Articulates and accelerates re-patterning;
  • Is a doorway into creative process for both practitioner and subject;
  • Is a feedback tool that reveals patterns that would otherwise go unnoticed and unchallenged.

体のバランスと脳

不安定で揺れる物の上に立つなんて、普段なら本能的に避けますよね。転倒のリスクや不快な刺激を避ける気持ちが働きます。
そういった快・不快、安全・危険を、わたしたちは視覚や内耳(前庭系)で捉えて瞬時に脳が判断して、より安定・安全の方へとバランスをとるようにできています。

「脳が判断して」とざっくり書きましたが、少し詳しく書くと、バランスの司令塔である小脳は前庭系や固有受容器官からの信号を受けて体の位置や動きをリアルタイムで把握し、姿勢を微調整しています。また、大脳皮質の運動野や体性感覚野は、小脳や前庭系からの情報を受けて必要な動きを意識的に調整します。脳幹は自律的な姿勢反射を司り、前庭系からの情報を迅速に処理して筋肉に指令を出します。
このように、「バランスをとる」という動作は、視覚・内耳・脳・体の固有感覚の複雑な協働によってなりたっています。

バランスと感情

バランスに関わる情報は、情動の土台としての脳にも影響を与えるため、バランスと感情には関連があることがわかっています。

今回のワークショップで初めてチューニングボード™︎に乗って数分後に、私は突然泣き出したくなったのですが、講義内容と関係ない文脈で泣くのは憚られたのでじっと堪えていました。他にも感情が刺激される参加者は複数名いました。

バランスの感覚は、先に述べたように内耳の前庭系から脳幹、小脳・大脳辺縁系(特に扁桃体) に伝わります。この経路は、感情処理に重要な扁桃体や視床下部などと密接に連携しています。そのため、体が揺れてバランスが乱れると自律神経が反応し、不安や緊張の感情が生じます。安定した姿勢や重心は安心感、落ち着きを生みます。
感情を昂らせてパニック状態の人をまずは座らせようとするのも、感情を落ち着けるためには安定した姿勢をとる必要があると、我々が本能的あるいは経験的に知っているからです。

敢えてゆさぶりをかける意味

チューニングボード™︎は、体に潜む滞りや固着をほどき、fluidity(流動性、生命体としての流れ)を呼び覚まします。自分の体がボードの上で生み出す揺れが、意識の奥深くの感覚を揺り起こし、自分という存在の根底に触れるきっかけとなるように感じました。

わたしは二日目の朝、自身の体が、表面にさざなみのたつ液体でできているように感じました。深部にはゆったりとした海流の静かな海があり、不穏な色をしています。足・脚・腰・肩・頭…みたいに「各パーツによって構成されている」感じが、普段の寝起きでは強くするのですが、ホールネスを感じた瞬間でした。

「世界が美しく見える」

チューニングボード™︎は、普段は気づかず通り過ぎてしまう深層のパターンを映し出す鏡でもあります。そこに現れるのは、単なる身体の揺れではなく、自己と世界の関係そのものです。

ワークショップの参加者からは、ボードに乗る体験を経るうちに「世界が美しく見えた」「空間の感覚が変わった」「天井を高く感じる」「ただの景色にしか見えていなかったものが、街ゆく人たちの存在がくっきり見えるようになった」など、空間認識や世界の知覚の仕方が変わったという感想が相次いでいました。

無意識のパターンを手放す

チューニングボード™︎で揺れていると、心地いいと感じるパターンが何回でも現れます。が、それを敢えて超えるような動きをボードの上で試みることもできます。
今回、ロルファーの串崎さんがプラクティショナー役になってくれた時に、攻めのボード体験をさせてくれたのですが、この方向づけは重要だと感じました。更に高いレベルでの体の統合には、古いパターンを手放す必要があります。そのためには敢えて不安定な場所、ポジションをとる必要があるからです。「いくら頭で考えても元のパターンに戻ってしまう」と、行き詰まりを感じている人には、チューニングボード™︎はとてもいいツールになるのでは。

繰り返し体に刻まれた無意識の型(パターン)は、揺れのなかで解かれ、新たな秩序へと再構築されていきます。だから、チューニングボード™︎を降りた後に「馴染みのない感じがする」「新しい生き物になった気がする」という感想が飛び出すのです。

プラクティショナーの役割

チューニングボード™︎は積極的に体を揺らすものですし、これまで説明した通り、「不安定な面に立ってバランスをとる」行為の裏では、脳や四肢、感情などにおいて様々なことが同時多発的に起きています。
つまり、チューニングボード™︎の上では何が起こるかわからないものですから、ひとりで乗ることは非推奨です。例えダンサーや古武術の達人でも、突如バランスを大きく崩して倒れることもありえます。

何かあった時にすぐ身体を支えられる場所に常に立っていること以外に、感覚や気づきの言語化を促したり、そこから一歩踏み込んだ挑戦を提案したりという役割がプラクティショナーにはあります。

まとめ

構造と動作(ムーブメント)、そして体験は、本来、別のものではありません。チューニングボード™︎はその三者の精妙な調和を顕わにし、わたしたちに「ヒトの身体を得てこの世界を体験している」という事実を味わわせてくれます。

身体は、思考よりも先に世界を知っています。
そのことに気づかせてくれるのが、コンパクトなチューニングボード™︎の大きな役割なのかもしれません。

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    ABOUT US
    Izume Rika認定ロルファー Certified Rolfer
    40代に入った途端に股関節を傷めてしまい、大学病院で手術を受けたのに杖なしでは暮らせない…そんな状況からロルフィングで普通の暮らしをとりもどしました。自らロルファーとなって2016年4月に東京で開業。小金井市で施術しています。